専務取締役杜氏の純米酒ブログ

期せずして杜氏になっちまった造り酒屋後継ぎの純米蔵奮闘記

じいさん(その3)

じいさんとの思い出はたくさんあり過ぎて、特別にここで書くこともできないけど、半年ずつ9年間にわたって寝食を共にしたわけですから、普通の仕事仲間ってよりはお互いのことをよく知ってたはずです。こんな言い方もおかしいかもしれませんが、40近くも歳が離れている親友みたいな間柄だったような気がしますね。

私としては輝かしい職歴を誇る名杜氏への尊敬がありましたし、じいさんから見れば孫みたいなヤツが何とか酒造りを身につけようと頑張っているように見えたでしょう。専務として経営に四苦八苦している様子も、じれったい思いも持ちながら、どこかで応援してやりたい気持ちで見守っていてくれたに違いありません。

ただ、最初からそう見てはくれなかったのも事実でしょう。会社に入った最初の年から蔵に入れられましたが、私の親父とすれば、酒を造れるまでにはならなくても多少なりとも酒造りの事が分かる程度にはなっておいた方がいいっていう判断だったようですし、蔵人達も社長の息子が何をしにくるのかくらいの気持ちで迎え入れてくれてたはずです。

その頃、既に蔵は高齢化してましたから、仕込みやタンク洗いや米担ぎなんかの重労働は一番若い私の仕事でした。吟醸のもろみなんかには触らせてもらえなかったし、麹室の中で何がされているかも全く分かりませんでしたね。こんな事じゃ酒造りなんて勉強できはしないと、半分イジケながら仕事したもんです。

結局、その経験は後になって私の自信につながったんですけど、若い時の苦労は買ってでもしておけってことが理解できたのは、もうじいさんが蔵にいなくなってからのことでしたかね。蔵に入って3年か4年経った頃、私のお袋に「専務はようやく使えるようになってきましたよ」と言っているのを聞いた時には心底嬉しかった。

じいさんが蔵を去る前の数年間は、蔵への泊まり込みは私と2人だけになって、夜の晩酌は差しつ差されつで、昔の酒造りから自分の若い頃の武勇伝まで毎晩聞かされたもんです。同じ話を10回くらいは聞いたかもしれませんが、本当に心を許してくれているのがよく分かりました。そんなこと家族にも話さないんじゃないかって話も聞きましたね。

それと同時に、蔵の仕事もいろいろ任されるようになって、麹造りから帳面付けから出品酒の選定まで、およそ杜氏がすべき仕事は一通り教わることができました。じいさんとしても、技術的なトップシークレットを教える相手として私は都合が良かったかもしれません。私の酒造りはじいさん譲り。信濃鶴の中に今でもじいさんは生きています。


□□□ 頭の固さもじいさん譲りかな □□□
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コメント

後継ぎ

こいつは見込みがあるって分かってもらうまでが大変だったでしょうが、
根っからの職人ですから、やる気と素質さえ認めれば、
後は自分の技術と酒造りへの思いの全てを伝えようとしたでしょうね。
先々のことまでは分からないにしても自分の後継ぎが育って、
安心して蔵を去って行けたんだと思います。

この先も造りに悩んだときには、あの『じいさん』ならどうしただろう?
と問い続けて行くんでしょうね。

  • 2016/09/23(金) 12:27:12 |
  • URL |
  • まっちー #-
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学ぶべき存在

お手本となる酒造りの師匠がいるのは羨ましい限り。
自分にもそんな存在がいたら、また違ってたのかも。
その分独学で自分なりの酒造りを発見できたが。

  • 2016/09/23(金) 12:27:47 |
  • URL |
  • 京都のK #-
  • [ 編集 ]

Re: 後継ぎ

職人の世界では教えないから盗めみたいなところがありますよね。
じいさんも多分にそういう気質でしたが、最後の年は積極的にいろいろ言ってくれました。
時には厳しく叱られることもありましたよ。
しっかりと全てをマスターできたわけじゃありませんけど、私の酒造りの基本は全てじいさんから受け継いだものです。

  • 2016/09/23(金) 17:20:54 |
  • URL |
  • 岳志 #-
  • [ 編集 ]

Re: 学ぶべき存在

Kさんにだって師匠はいたんじゃないんですか?
いろんな経験の中から今の技術を少しずつ学んだのかな?
いろんな技術にトライして、私もいろいろ教えてもらってるから、それがKさんの生き方なのかも(笑)。
伏見っていう場所もそういう勉強をさせてくれる場所なのかもしれませんね。

  • 2016/09/23(金) 17:26:48 |
  • URL |
  • 岳志 #-
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