他の地域のことはよく分かりませんが、私の周りを見回してみると、私たち造り酒屋の営業の対象は基本的には酒販店、つまりまちの小売店さんになるわけです。そして酒販店さんが料飲店、つまり寿司屋や割烹や居酒屋といった、お酒の消費される末端のお店に対して営業をかけるというのが一般的な形です。
だいたい料飲店さんは出入りの酒販店さんを持っていますから、その料飲店さんにどんな酒が入るのかは、その店のご主人の考えと出入りの酒販店さんの考えによって決定されているんだと思います。だから、私のような立場の人間が酒販店さんの頭を飛び越して、直接料飲店さんに「鶴を扱ってください」という営業じみたことをすると、嫌がられちゃうこともあるんです。
そりゃあ飲みにいって、信濃鶴が置いてなければ「よろしくお願いします」くらいのことは当然言いますよ。でも、扱われているのは大抵地元の酒が多いわけですから、そこに強引に割り込むってぇのも気が引けちゃうしね。結局、「このお酒美味しいですねぇ」なんてほかの蔵の酒を褒めて帰ってくることの方が多いんですよ。
今日は、そういう状況ではなくて、そのお店に出入りしている酒販店さんから、扱っているお酒に信濃鶴も入れたいから、その店のご主人に鶴を売り込んでほしいって頼まれたんです。それに、今メインで扱っているのはこの地域の蔵の酒ではないので、私としてもあまり気兼ねがありませんでしたね。
当然、お酒の営業にそのお店に行っているわけですから、ちったぁ飲まにゃぁならんでしょ?飲まないでも営業できるかもしれませんが、そういうもんじゃないと思いませんか?飲みながら説明することも大切じゃん?・・・だから、仕方なく飲むんですよ、仕方なくね(笑)。
そのお店に入ってご挨拶をすると、奥さんがかなり信濃鶴のファンであることが判明して、いきなり仕事がやりやすくなりました(笑)。信濃鶴はとてもいいお酒だと言ってくれて、これまでの地道な努力が案外こういうところで実を結んでんだなぁなんて、心の中でうれしく思いましたよ。
しかし、やっぱりこれまでずっと使ってきたお酒にも思い入れがあって、いきなり全部変えるなんてぇわけにはいきません。それに、なんでそのお酒を使ってきたのかなんてぇ話になれば、そのお店の歴史も聞かせてもらうことになって面白かったし、すぐに変えてくれなんていう気持ちにもなれませんでしたね。
ご主人も味をみてくれて、まずまずの評価。ちょっと見は愛想のない感じのオヤジさんですが、話が進むにつれて笑顔も見せてくれるようになりました。こりゃぁなかなかの好感触。少しずつ始めてみましょうというご返事をいただいて、店を後にしました。
今日は土砂降りで、大変な日に約束しちゃったなぁなんて思ってたんですが、天気が良ければお客さんが一杯で、とても話なんか聞いてもらえるお店じゃなかったそうで、天も味方してくれたみたいですね。店を出た時には気持ちよく晴れてました。
こういう時は造り酒屋も悪くないですね。飲んで仕事になっちゃうんだもんなぁ(笑)。
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