専務取締役杜氏の純米酒ブログ

期せずして杜氏になってしまった造り酒屋後継ぎの純米蔵奮闘記

入蔵(3)

初めて杜氏代行になった年のことを、今でもよく思い出します。それまで8年くらいは蔵人として働いていたし、長年勤めてくれる人もいました。しかし、いざ入蔵となって準備を始めようとすると、やることだらけで何から手をつけていいのか、優先順位は何なのか、何を手配しなくてはならないのか・・・途方にくれた記憶があります。準備作業ひとつとっても、手順が悪いからまた時間がかかる。全てのことに手間取ってしまいました。

そういえば、麹菌や酵母菌の手配をするのを忘れていて、明日米を蒸し始めるという日になって気が付いて、泡を食ったことがあったっけ。隣の市の酒蔵に慌てて借りに行ったもんです。

実は今でもあるんですよ。そんなに大失敗はないんですけど、使う日の直前になって気が付くことが・・・。寝がけに思い出して、ガバッと布団から飛び起きるんです。やっぱり蔵の生活は精神衛生上良くないかもしれないですね。

女房も言います。
「最初の年、あなた会社へ帰るとき、玄関から車まで走ってたわよ。そんな距離走ったって何にも関係ないくらいだと思ったんだけど・・・」

緊張しっぱなしだったんでしょうね。今では気軽に判断できることでも、
「失敗したらどうしよう」
という、とてつもない恐怖を感じてしまって、判断に時間がかかってしまう。もろみの温度設定を0.5度下げるだけでも、2時間も悩んでいました。もろみタンクは蔵内に10本以上ありますから、20時間とは言いませんが相当な時間を費やしていました。

昼間は他の蔵人と通常の仕事がありますから、夜の間ずっとウジウジと考え込むわけです。ですから、睡眠時間は本当に、本当に3時間程度だったと思いますよ。大げさではありません。私の性格にもよるんでしょうが、杜氏1年生なんてみんなそういう苦労を体験しているんじゃないかなぁ。

あの半年は私の人生の中で、たぶん最も苦しい半年だったと思います。精神的にも、肉体的にも。それが今の私の肥やしになっているはずです。

仕込みの準備作業が始まると、いつもこんなことを思い出してしまいますが、今だってそう楽になっているわけではありません。しかし、余裕ができた分を少しでもいい酒造りにまわせるように、日々研鑚しています(ちょっとカッコいい事言いすぎかな)。

ともあれ今年も造りが始まりました。どんな酒ができるのか、自分が一番楽しみにしているんじゃないかな。

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