fc2ブログ

専務取締役杜氏の純米酒ブログ

期せずして杜氏になっちまった造り酒屋後継ぎの純米蔵奮闘記

農口杜氏

20100521201548.jpg

「オメェさんとオレとの間には年の差なんて関係ぇねぇんだ。同じ杜氏として日本酒を造っている同志だ。いいモノが造れるように、これからも一緒に頑張りまっしょや」・・・訛りの強い能登弁で、その杜氏は私の手を握りながら語りかけてくれました。杜氏の名前は『農口尚彦(のぐちなおひこ)』氏。今、日本で一番有名な杜氏といっても過言ではないでしょう。

「毎年毎年が挑戦なんだよねぇ。1年にひとつずつ階段を上るように、技術を向上させていかなくっちゃなんねぇ」・・・御歳77歳にして、まだこの熱意。私と彼との距離を縮めることは、彼が天に召されるまでできないでしょう。『菊姫』醸造元を65歳で定年退職するも、請われて『常きげん』醸造元でまだまだ現役で働いておられます。

「何十年も杜氏を続けてきても、まだまだ分からないことだらけなんですが。だから、1年1年が新たな気持ちだし、記録もしっかりとつけとります」・・・経験や勘も必要だが、数値化できるものは全て記録して、指示を出す際にも数字に基づいた判断をさせているとのこと。ブレのない酒質を実現するための努力を常にしておられるんでしょう。

「酒造りで重要なのは、やっぱり米の処理と麹造りだな。麹造りの基本は、『膨らませ、乾かせ、老なせ』だと思っとります。しっかりとハゼの突いた麹を造らにゃならん」・・・日本中の杜氏が耳を傾けるその醸造理論は、長年の経験に裏打ちされていて、話を聞いただけでトレースできるような代物ではありません。

「しっかりと山田錦をさらしたら、スルッスルッした手触りになるんじゃ。美山錦はまた全然違うから注意せにゃいかん」・・・米の表情を語る時の表情は、正に一流杜氏の眼差しでした。体中から酒造りに対する愛情が湧き出ているかの如く言葉が発せられます。こういう杜氏が造った酒が不味いわけがないことは、誰の目にも明らかでしょう。

・・・スゲーと思いませんか!!!私、全国金賞の発表があった日の夜、あの農口杜氏と一緒に飲んでたんですよ。私が持っている農口さんのお書きになった本には、所々赤線が引いてあって、自分の酒造りに行き詰った時なんかにはよく見返しているんです。今回、私が直接に1対1でお話をさせてもらえた時間はそれほど長くはありませんでしたが、どの言葉もズンズンと胸に響いて、とても感動しましたね。

NHKの『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演してからというもの、更にそのカリスマに磨きがかかっちゃって、私たちがお会いできるような杜氏じゃなくなってしまった感もありますが、それ以前からだって十分に日本一の杜氏のうちのおひとりであったことは確かです。特に山廃系と呼ばれるお酒を造らせたら、右に出る者は誰もいないというのが、私たちの業界での常識になっていますね。

野口さんのお造りになるのは、どっしりとした米の旨みが十分に発揮されたタイプのお酒だと思います。新酒で出すよりも、しばらく寝かせて熟成させてから出荷なさりたいようですが、テレビに出てからというもの常きげんは品薄状態が続いていて、若い酒も出さなくっちゃならないなんてぼやいておられました。・・・今日はこの辺にして、続きはまた明日。


□□□ ギターを持たせたらBBキングっていう雰囲気の人でしたよ □□□
■■■日本酒の未来のためにクリックお願いします!人気ブログランキングへ■■■

スポンサーサイト